「JENESYS2024」日本青年研究者訪中団
本事業は、中国社会科学院の招待により、日本の大学・研究機関等に所属する青年研究者を訪中派遣したもので、今回は2019年度、2023年度に続き3回目の派遣となりました。政府・党関係者や青年研究者との意見交換等を通じて互いの理解を深めるとともに、「地域活性化」をテーマに視察・参観し、中国についての多面的な理解を深めました。
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Highlight
外交部、共産党中央対外連絡部の政府・党関係者と交流
外交部ではアジア司鄧偉参事官、張梅参事官らと懇談。団員からの様々な質問に応じる形で率直な意見交換が行われました。共産党中央対外連絡部では、同部や中国国際交流協会、中国経済交流センターの若手職員らと、「互いの国への印象や日中関係」をテーマに、日中代表者による発表が行われました。
日中青年研究者座談会・交流夕食会に参加
過去に訪日した中国社会科学院青年研究者代表団参加者10名と本訪中団参加者による座談会と交流夕食会に参加しました。座談会では、冒頭、日中双方の代表者より、訪日経験・訪中への期待を共有、専門分野の観点からの日中関係についての発表がなされました。発表後のグループディスカッションや交流夕食会では、少子高齢化、コンテンツ産業、フェミニズム、平和に対する考え方など、様々な観点から日中研究者による忌憚ない意見交換が行われました。
「地域活性化」をテーマに河南省鄭州市で関係機関を視察、伝統芸術に親しむ
鄭州市では、金水区で実践中のアプリによる社区の住民参加型のスマート行政サービスの運営状況や、観光・ブランド野菜栽培と高齢者支援などを兼ねたモデル農村である恵経区孫庄村を視察したほか、住民サービスの高度集約化に成功した鄭州市政務服務中心、商工会など各施設を視察し、地域活性化の多様な試みについて理解を深めました。また、嵩山少林寺・地元の武術学校の訪問、河南省博物館の視察等を通じ、中国武術や芸術の奥深さに触れました。
実施概要
派遣期間: 2024年9月8日(日)~9月14日(土) 6泊7日間
派遣人数: 16名(団長、団員13名、(公財)日中友好会館事務局等2名)
実施団体: (公財)日中友好会館
受入機関: 中国社会科学院
内 容: ・交流テーマ「地域活性化」
・中国社会科学院の青年研究者との意見交換
・中央政府・党機関訪問、地方政府関係者との交流
・その他、交流テーマに沿った活動や中国の経済、文化、歴史等に触れるプログラム等
主な日程
9月8日(日) PM 北京着 9月9日(月) AM 中華人民共和国外交部 訪問 PM 中国歴史研究院考古博物館 参観 在中国日本国大使館 ブリーフ(中国情勢・日中関係について) 9月10日(火) AM 山中国共産党中央対外連絡部 訪問 PM 日中青年研究者座談会・交流夕食会(中国社会科学院研究者代表団フォローアップ) 9月11日(水) AM 河南省鄭州市へ移動(高速鉄道) PM 金水区杜嶺街道商圏党群服務中心(アプリを利用したスマート行政サービス)、 恵済区孫庄村、鄭州師範学院 視察 9月12日(木) AM 河南省温州商会(商工会)、鄭州市児童福祉院、鄭州市政務服務中心、 ハイテク区笨爸爸工房(父子教室)視察 PM 嵩山少林寺、少林延魯武術学校 訪問 9月13日(金) AM 河南省博物館 参観 PM 北京市へ移動(高速鉄道)、報告会 9月14日(土) PM 帰国 |
参加者の感想
◆対面して会うことに意義があり、そこから見える人柄や人間味に互いに触れ合うことを、どのようなレベルの交流でも継続していくことは大切だと感じた。社会科学院の研究者の皆さんとの議論においては、時に米中関係や領土問題での認識の隔たりを感じたが、育児、働き方など、より身近なテーマでは共感し合うことができ、やはり人間同士だと感じた。
◆中国を対象とした研究を行ってきたものの、コロナ禍以降、学術的活動のために日本から中国に行く際にはビザ申請が必須となり、そのための招聘状を出してくれるカウンターパート探しに苦労している。今回訪中団に参加したのも、今後の中国側カウンターパートまたはその窓口になってくれる研究者を探したいとの考えからであった。幸いにも訪中日程において若手研究者と人的往来の問題について話し合う機会があり、相手方もビザに関して同様の状況にあり、日本側のカウンターパート探しに苦労している事情を知った。お互いの所属先同士が人的往来の便宜を図る旨の協定を締結できればよいのではないかとの話になり、それぞれの所属先へ提案することを約束した。
◆日中が共通課題に取り組む可能性という点で言えば、社会科学学院や鄭州市の政府関係者が再三主張していた「日本人の中国観」も両国の関係性の発展にとって障害になるのではないかと思いました。彼らが繰り返し述べていたのは「日本人はマスメディアの偏向報道ばかりを見て中国に悪い印象を持っている」でした。今回訪中ツアーに参加したうちの半分以上は中国を専門とする学者であり、そういったメディアに対するリテラシーは十分有していると思われます。また、彼らの言うマスメディアはよくよく聞くと昼の時間帯に流れるワイドショーの事を指しているようでした。現在、テレビを見る日本人は減っており、そういったマスメディアの報道にもある意味真面目に向き合っていない若者が多くなっていると思われます。中国側はそういった現状を理解していないのではないかと思った次第です。
◆一つは中国社会の多様性である。中国の人々は立場や地位によって考え方が大きく異なっているように見えた。また今回訪れた二都市では様々な人にあったが彼らは(良い意味で)他都市の人々に競争心を抱いていた。中国政府は現在、「一つの中国」「五族共和」を唱えているが、それは本質的な中国の状態とは異なるのではないかと思った。もう一つは中国民衆を支配するシステムの合理性である。今回訪れたスマートシティーでは、民間社会の相互互助を目的としたオンラインシステムに基づくコミュニケーションシステムを確認した。これらは不確定な要素を排除し確実に人を助けるという点で合理的ではあるが、中国社会のコミュニティーが民衆ではなく共産党によって主導されることにつながってしまうようにも見える。いずれにせよ、今回得られた二つの視点は自分の研究にもつながるだろう。
◆日本とは全く違う政治や社会システムの中にある治世や生活に衝撃を受けました。これは悪い意味ばかりでなく、現在日本で課題だと言われている、社会問題に対する「解決力」や「突破力」の人的・資源的リソースの割き方をすごいとも感じました。日中両側の発表でも繰り返し言われたように、政治レベルでなく個人同士の付き合いが大切なのだと改めて感じる事ができました。公衆衛生や医療政策という専門領域分野では、日本の常識とはかなり乖離した状況があり、例えば救急医療や、健康保険といった項目一つをとっても全く異なる社会常識で運営されていることが分かり衝撃でした。異なる課題、共通する課題のいずれも他国と見比べることの重要性や協力の可能性を実感として感じられ、貴重な経験となりました。
◆今回の訪中で得た収穫は多岐にわたり、中国の多面性を直接体験できたことが最大の成果です。まず、技術革新の速さと普及率の高さに驚かされました。電子決済システムが日常生活に深く浸透しており、スマートフォン一つでほぼすべての支払いが可能な環境は、日本以上に進んでいると感じました。また、行政サービスのデジタル化も顕著で、効率的な公共サービスの提供方法を学ぶことができました。社会課題への取り組みも興味深く、特にジェンダー問題に対する中国独自のアプローチは新鮮でした。職場での男女平等や、育児支援制度など、日本と比較しながら考察する機会を得られました。研究者として、中国の大学や研究機関を訪問できたことも重要な収穫です。最先端の研究設備や、研究者たちの熱意に触れ、今後の共同研究の可能性を探ることができました。