新時代を担う日中友好の架け橋に

日中国交正常化50周年記念コラム 第64回(小川正史)

 日本と中国の国交が正常化されてから50周年となる本年、日中友好会館ではホームページとメールマガジンで「日中国交正常化50周年記念コラム」を連載いたします。

 日中交流に長く携わった方や、日中友好会館の各事業に参加された幅広い世代の方に、日本と中国に関わりのある事柄、随筆、これまでの日中交流のエピソードや、これからの日本と中国に向けての期待・希望などメッセージを執筆いただき、一年にわたって連載します。また、日中民間交流の拠点として貢献する日中友好会館の取り組みなども合わせてご紹介します。

 日本と中国のこれまでの歩みを振り返りながら、新しい友好関係の構築に向けたプラットフォーム作りの一助となれば幸いです。

 

新たな50年を迎えて

公益財団法人日中友好会館理事長 小川正史

 

 2022年は日中国交正常化から50年目に当たる節目の年でしたが、あと数日を残すのみで、新たな50年が始まろうとしています。

 これまでの50年間を振り返ってみれば、日中関係は、経済、文化、人的交流などの幅広い分野で大きな発展を遂げました。2021年における両国の貿易総額は3,914億ドルで50年前の356倍に増加し、中国進出の日系企業は12,000社を超えています。コロナ流行前の2019年における日中間の人的往来は延べ1,227万人に達しました。政治の分野では数々の難しい問題に直面しましたが、両国の大局的な友好関係を大きく損なうような事態は回避できました。政治体制や社会制度を異にする日中両国が、50年でこうした関係を築き上げることができたのは、多くの人々の知恵と献身の賜物であると考えます。私も、外務省の事務方として、中国関係の仕事に携わってきたので、とても誇らしく思う次第です。

 しかし、最近の日中関係は、これまでになかったような厳しい課題、懸案に向かい合っているように思われます。第一に、国際情勢の変化です。30年に及んだポスト冷戦期は終焉を迎えつつあり、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル活動に代表されるような武力による一方的な国際秩序変更の企てが横行しつつあります。こうした国際情勢の変化は必然的に日中関係にも影響を及ぼすので、両国はこれまでになかったような新たな対応を迫られる可能性があります。第二に、日中両国民の相手側に対する好感度の低下です。「言論NPO」が本年7月に行った日中共同世論調査では、日本人で中国に対して良くない印象を持っている人は87.3%、中国人で日本に対して同様の印象を持っている人は62.6%であり、10年以上前と比較して悪化しています。理由は、相手国の政治体制、尖閣問題、過去の歴史など様々ですが、コロナによって両国国民間の交流が停止していることの影響も大きいと思います。

 こうした状況の下、私は本年7月に日中友好会館の理事長に就任しましたが、その時点では50周年を祝賀するような雰囲気は乏しく、公式の50周年記念式典が実施されるか否かも決まっていませんでした。さらに8月にはペロシ米国下院議長の台湾訪問と、これに抗議する中国の大規模な軍事演習が実施され、日中関係にも影響が及びました。

 しかし、日中の緊張は、8月17日に天津で行われた秋葉国家安全保障局長と楊潔箎国務委員との会談を契機として緩和に向かったようです。9月に入ると、講演会、コンサート、写真展など50周年を祝賀する多くの民間行事が実施されるようになり、9月29日には公式の50周年記念式典が行われ、岸田総理、習近平国家主席からの祝賀メッセージが交換されました。ちなみに、12月20日時点で、日本側の50周年実行委員会から認定を受けた民間の記念行事は215件に上ります。これは、やはり日本では日中友好を願う人々の層が厚いことを示していると思います。

 また、11月17日には、バンコクにて3年ぶりとなる日中首脳会談が行われました。私は、岸田総理と習近平国家主席が冒頭に笑顔で握手したのをテレビで見て、これは有意義な会談になると感じましたが、事実、岸田総理は、会談後の記者会見で「率直かつ突っ込んだ議論ができた」と評価しておられます。首脳会談では、双方は、日中関係には様々な協力の可能性があるが、同時に多くの課題や懸念にも直面していることを認めた上で、日中関係の重要性を再確認し、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築に取り組むことに合意した模様です。

 日中双方の外交当局の公表によれば、主な合意点は以下の通りです。

  1. ①首脳レベルを含めたあらゆるレベルでの緊密な意思疎通を行うこと。
  2. ②ハイレベル経済対話、ハイレベル人的・文化的交流対話を早期に再開すること。
  3. ③環境・省エネを含むクリーン経済や医療・介護・ヘルスケア分野での協力を後押しすること。
  4. ④両国の未来を担う青少年を含む国民交流を再活性化させていくこと。
  5. ⑤日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの早期運用開始、日中安保対話等による意思疎通を強化すること。
  6. ⑥核兵器を使用してはならず、核戦争を行ってはならないこと。

 私は、この首脳会談は、日中関係の新たな50年を迎えるにあたって非常に意義深いものであったと考えます。現在の国際情勢は不安定、不透明であり、日中関係もこれに影響を受ける可能性があります。しかし、日中両国が、この首脳会談で合意されたように「建設的かつ安定的」な関係を構築する努力を続ければ、必ず両国の友好協力関係を発展させるための新たな途が開け、東アジアと世界の平和、安定の維持に貢献することができると信じます。

 また、今回の首脳会議では、文化交流や青少年交流などの国民交流を再活性化させていくことも確認されました。現状では、双方国民の相手側に対する好感度は相当に低いのですが、次の世代を担う両国青少年の交流を促進し、相手国の優れた文化を紹介していけば、国民レベルの相互理解が深まり、相手国に対する印象も変わってくるはずです。日中友好会館の主な仕事は、まさに青少年交流と文化交流であるところ、次の日中の50年に向けて、私たちはこうした努力を継続していく所存です。

2022年12月27日

 
 

お知らせ

 2022年1月から連載しました「日中国交正常化50周年記念コラム」は、今回(第64回)で掲載終了いたします。日中友好会館の運営や各事業にご支援ご協力いただいた日中双方の多くの方に執筆いただき、さまざまな分野の日中交流の50年を紹介することができました。改めてご寄稿の皆さま、閲覧いただいた皆さまに感謝申し上げます。

(広報チーム)

 
 
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