今どき北京はこう歩く
第7回

 そもそも中国人同士の食事会で、 割り勘にしている光景は、 見たことがない。 会計の時になると、 誰かがさっと伝票を手にしていく。 それを周りが自然に受け入れる。次の集まりでは、他の誰かが支払いをする。別に取り決めがあるわけではない。暗黙の了解である。ここでいつも奢られているようでは、(女性を除く)「ケチ」のレッテルを貼られ、友人の輪から除外されてしまうのだそうだ。

 中国人に聞くと、「女友達同士でも割り勘にはしない」という。つまり、貸し借りすれば次回また会うきっかけができる。前回ご馳走になったから、今度は私が、ということになり、こうして人間関係が続いていくのだそうだ。

 それでもやはり、新しい時代の波はやってくる。

 中国では春節、旧正月を迎える前日の夜(大晦日である)、一族が集まって食事をする習慣がある。以前は両親の家に集まって、大晦日の特別番組を観ながら食事をしたものだが、最近ではレストランを使うことも多い。

 その食事が悩みのタネになっていると語る人たちが多数出始めた。

 ネットニュース(中国新聞網)に「一族が集まる大晦日の食事会、ワリカン導入で家族の絆に亀裂」という記事が掲載された。

 ある年の春節、武漢に住む李さんは食事会幹事である親戚から今年は割り勘でと連絡を受けたのだそうだ。

 しかし李さんは思う。親戚同士で割り勘なんて!人情味がない、一族が集まる「団圓飯」がまるで仕事の食事会のように感じられる!

 李さんは欠席することまで考えたという。

 割り勘では人情味を感じられないと嫌がる人も少なくないのである。

 中国人の目に映る日本人は、ケチか倹約家か、微妙なところである。
 立派ななりをしたビジネスマン、そしてブランドのバッグを持つような裕福そうな奥さまたち、それぞれ食事の後で、小銭に至るまできちんと割っている姿は、中国人にとって大層不思議な光景である。

 「あなたはケチですか?」 と問われれば、「はい、 ケチです」 と私は答える。「損をすると、 とても気になる」 「いらないものでも捨てない」 「割引券・無料券は必ず使う」 「光熱費などの節約に熱心」 「1円でも安い方を選ぶ」 …。

 私はすべてが「YES」である。ケチか倹約か、線引きは微妙だ。

 しかし、ケチは人間関係にも影響する。

 特に、ケチな女性よりもケチな男性は、伝説化していくから要注意である。

 大陸の中国人は基本気質が「大方」と言われ、これは鷹揚で気前がいいというイメージだ。

 そんな中国人にとり、日本人のケチ伝説というのは、根強く残る。

 世界的に有名な大企業の中国駐在員。打ち合わせに現地採用の中国人女性と出かけた際、乗ったタクシー料金14元(約23円)だったが、後で彼女に、「君の分は7元ね」と要求したという。

 会社での飲み会。某日本人課長は、会社の経費で落とすにもかかわらず、みんなから200元ずつ徴収した。

 これらの話は、中国人スタッフの間で伝説と化していて、7元で名誉を失うのは、実に残念である。

 中国社会は人間関係で回っている。そしてそれは、本来の人と人との情のほかに利害関係という大きな要素があるということも事実である。

 余談になるが、中国人を接待する時は、絶対にケチってはいけない。

 食事の席ではケチらない。これは中国人と接する際の、基礎の基礎と言ってもいい。

「私はもうこの料理を作ることができます」

 単に炒めただけの料理ではない。素人目にもプロでないと不可能と感じる一品だった。

 彼は毎日厨房に入る。朝、 奥さんから食費を受け取り、 仕事が終わると市場に行って食材を購入(もちろん予算内)、そしてその日の夕食を作る。

 蘇然さんが特別、ということではない。中国人男性は厨房に入るのを厭わないようだ。それどころか、それぞれが「自分の得意料理」を持っている。某友人は、結婚が決まると、料理教室に通ったのだそうだ。

 留学時代、大学で中国語を教えている先生は、時間的に自由があるということで、毎日の夕食作りは彼の担当だった。

 ある日、同僚が家を訪ねてきたので、夕食を共にすることになった。

「そんな時は奥さんが作るんですよね?」と聞くと、
「いや、同僚と二人で作った。彼女はソファに座っていたなあ」

 家では料理を作り、外では女性にご馳走する。

 中国人男性の皆さま、ほんとにお疲れ様です。これからもいっぱいご馳走してくださいね。

(続く)

青樹 明子

愛知県生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学第一文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。
1995年より2年間北京師範大学、北京語言文化大学へ留学し、98年より北京や広州のラジオ局にて、日本語番組の制作プロデューサーやMCを務める。2014年に帰国。著書に『中国人の頭の中』『中国人が上司になる日』『日中ビジネス摩擦』『「小皇帝」世代の中国』『家計簿からみる中国 今ほんとうの姿』等。

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