今どき北京はこう歩く
第7回
第7回
中国男子にワリカンなし
究極のクールチャイナって?
長きに渡って、中国で「クールジャパン」を紹介するラジオ番組を制作してきた。最大の願望だったリスナーが100%中国人というラジオ局で、日本に関係する番組を放送できたことは、私の生涯の誇りである。

「日式火鍋放題(しゃぶしゃぶ)」 「スシロー」 「MINISO名創優品」 ・・・今どき北京の“クールジャパン”
思い出は山ほどあるけれど、 今日はまず、 定期的に放送した <酷愛中国> シリーズについてお話しさせてください。 酷愛中国とは、クールジャパンの反対、クールチャイナという意味で、 中国在住の日本人に、「中国のここがクール」という声を取材した特別企画である。
中国滞在の長い日本人、いったい何を「クールチャイナ」と捉えたのだろう。実に様々だった。
「中国式ファストフード。 早くて、 おいしくて、 安い」「四川火鍋。 辛さが実に美味」「世界中の車が集まっていて、 まるでモーターショーのよう」「家族を大事にする風潮が好き」「地面に水を使って書道をする。 実にクール」等々。
なかでも、大いに賛同したのは、ある女性がクールチャイナに挙げた、「中国人の男性は女性にお金を払わせない」ことである。
中国生活十数年。私も中国人の男性には、ご馳走になり続け、そのたびに「いいのだろうか」と申し訳なく思いつつ、その特権を使わせていただいた。
たとえば、友人三人と食事をした日のこと。メンバーは、中国人の男性と、中国人の女性、そして日本人女性が二人である。食事が終わると、日本人二人はバッグをごそごそ探りながら、お財布を取り出そうとする。
「割ってね」
「割り勘にしましょう」
日本ではごく普通に見られる光景である。
しかし中国は違う。中国の男子漢、彼らの辞書に「割り勘」などという単語はない。店の従業員も迷わず彼のところに伝票を持っていき、友人も当然のように支払いを終える。会計を済ませた友人は、さも可笑しそうに言った。
「日本人は一応動作をするんだよね、私も払いますって。(中国人の)彼女を見てごらん。全く動かない。男が払って当然って顔している」
彼女は財布に触れることはなかった。
別のある日、 東京から私の家族が北京に来るというので、 友人夫婦が車を出してくれ、 空港まで迎えに行った。 早く着きすぎたので、 空港のスタバで待つことになったのだが、 私の家族を迎えに来てくれたのだから、 コーヒー代は私が持つのが当然、 と日本人の私は考える。
「コーヒー代、私が払うわ!」
すると、友人の妻が私の腕を取って、「何故?」と不思議そうに聞く。「彼が払うのが当然でしょ。彼は男なんだから」
そうか、男性が払うのが当然なんだ!
慣れというのは恐ろしい。 そのうち私も、 男性が支払ってくれるのを、 涼しい顔で見ていられるようになった。 お財布に触らなくてもいいとは、 なんと快適なことだろう。 中国人男性の「割り勘無し精神」は、 慣れると「クール!」である。
大学の後輩で年下の友人の例。北京在住の彼女は、自分で仕事の道を切り開き、独立独歩、立派に女の人生を生きている。
「先日中国人の男性数人と食事した時、お会計時にお約束の伝票の取り合いが始まったんです。私も一応それに参戦したんですね。
『私が払う、私が払う!一番年長だし!』って。そしたら男性達ピタッと止まりまして『あのね、ここでは君が一番支払いをしちゃいけない人なんだよ。女性なんだから』と。中国人男性のこういうところはカッコいいなと思いました」
異論はあると思うけれど、中国に長く住んだ日本人女性の一人として、まずは同感。
ちなみに聞いた話によると、南の地域では若い女性の場合、財布に触れず(スマホ電子マネーに触れず)に生活していけるのだそうだ。
筆者よりお願い。このあたりでページを閉じてしまわれる日本人男性の方々、どうぞこのままお読みください。中国人的思考を横目で見つつ、日本人でよかった、と思われるかもしれません。
割り勘は情がない?
そもそも中国人同士の食事会で、 割り勘にしている光景は、 見たことがない。 会計の時になると、 誰かがさっと伝票を手にしていく。 それを周りが自然に受け入れる。次の集まりでは、他の誰かが支払いをする。別に取り決めがあるわけではない。暗黙の了解である。ここでいつも奢られているようでは、(女性を除く)「ケチ」のレッテルを貼られ、友人の輪から除外されてしまうのだそうだ。
中国人に聞くと、「女友達同士でも割り勘にはしない」という。つまり、貸し借りすれば次回また会うきっかけができる。前回ご馳走になったから、今度は私が、ということになり、こうして人間関係が続いていくのだそうだ。
「お会計」文化の違いは、SNSでも話題
それでもやはり、新しい時代の波はやってくる。
中国では春節、旧正月を迎える前日の夜(大晦日である)、一族が集まって食事をする習慣がある。以前は両親の家に集まって、大晦日の特別番組を観ながら食事をしたものだが、最近ではレストランを使うことも多い。
その食事が悩みのタネになっていると語る人たちが多数出始めた。
ネットニュース(中国新聞網)に「一族が集まる大晦日の食事会、ワリカン導入で家族の絆に亀裂」という記事が掲載された。
ある年の春節、武漢に住む李さんは食事会幹事である親戚から今年は割り勘でと連絡を受けたのだそうだ。
しかし李さんは思う。親戚同士で割り勘なんて!人情味がない、一族が集まる「団圓飯」がまるで仕事の食事会のように感じられる!
李さんは欠席することまで考えたという。
割り勘では人情味を感じられないと嫌がる人も少なくないのである。
家族や友人と。団らんは絆を深める大事なひととき

中国人の目に映る日本人は、ケチか倹約家か、微妙なところである。
立派ななりをしたビジネスマン、そしてブランドのバッグを持つような裕福そうな奥さまたち、それぞれ食事の後で、小銭に至るまできちんと割っている姿は、中国人にとって大層不思議な光景である。
ケチな人は伝説化する
「あなたはケチですか?」 と問われれば、「はい、 ケチです」 と私は答える。「損をすると、 とても気になる」 「いらないものでも捨てない」 「割引券・無料券は必ず使う」 「光熱費などの節約に熱心」 「1円でも安い方を選ぶ」 …。
私はすべてが「YES」である。ケチか倹約か、線引きは微妙だ。
しかし、ケチは人間関係にも影響する。
特に、ケチな女性よりもケチな男性は、伝説化していくから要注意である。
大陸の中国人は基本気質が「大方」と言われ、これは鷹揚で気前がいいというイメージだ。
そんな中国人にとり、日本人のケチ伝説というのは、根強く残る。

世界的に有名な大企業の中国駐在員。打ち合わせに現地採用の中国人女性と出かけた際、乗ったタクシー料金14元(約23円)だったが、後で彼女に、「君の分は7元ね」と要求したという。
会社での飲み会。某日本人課長は、会社の経費で落とすにもかかわらず、みんなから200元ずつ徴収した。
これらの話は、中国人スタッフの間で伝説と化していて、7元で名誉を失うのは、実に残念である。
中国社会は人間関係で回っている。そしてそれは、本来の人と人との情のほかに利害関係という大きな要素があるということも事実である。
余談になるが、中国人を接待する時は、絶対にケチってはいけない。
中国人は食事に招待されると、レストランの格、料理の品数、内容、与えられた座席の位置などをさっと見て、一瞬にしてあらゆることを判断してしまう。相手が自分をどのくらい重要視しているか、相手にとって自分の地位はいかほどか、今後自分は相手とどのレベルで付き合っていけばいいか、などなど、人間関係の基本的情報のすべてを読みとってしまうのである。
食事の席ではケチらない。これは中国人と接する際の、基礎の基礎と言ってもいい。
男子厨房に入る
女性にお金を払わせない中国人男性。旧社会の男性至上主義の遺物、と言えないこともないが、一方で大層家庭的でもある。
ラジオ番組で、 私のパートナーを務めてくれた蘇然さん。仲間うちで食事に行った時、 料理の一皿をじっと見つめていた。その間約1分。その後彼はきっぱりと、自信を持ってこう言った。

「私はもうこの料理を作ることができます」
単に炒めただけの料理ではない。素人目にもプロでないと不可能と感じる一品だった。
彼は毎日厨房に入る。朝、 奥さんから食費を受け取り、 仕事が終わると市場に行って食材を購入(もちろん予算内)、そしてその日の夕食を作る。
蘇然さんが特別、ということではない。中国人男性は厨房に入るのを厭わないようだ。それどころか、それぞれが「自分の得意料理」を持っている。某友人は、結婚が決まると、料理教室に通ったのだそうだ。
留学時代、大学で中国語を教えている先生は、時間的に自由があるということで、毎日の夕食作りは彼の担当だった。
ある日、同僚が家を訪ねてきたので、夕食を共にすることになった。
「そんな時は奥さんが作るんですよね?」と聞くと、
「いや、同僚と二人で作った。彼女はソファに座っていたなあ」


家では料理を作り、外では女性にご馳走する。
中国人男性の皆さま、ほんとにお疲れ様です。これからもいっぱいご馳走してくださいね。
(続く)
厨房男子・蘇然さん 元番組パートナーでした
撮影:青樹明子

青樹 明子
愛知県生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学第一文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。
1995年より2年間北京師範大学、北京語言文化大学へ留学し、98年より北京や広州のラジオ局にて、日本語番組の制作プロデューサーやMCを務める。2014年に帰国。著書に『中国人の頭の中』『中国人が上司になる日』『日中ビジネス摩擦』『「小皇帝」世代の中国』『家計簿からみる中国 今ほんとうの姿』等。