今どき北京はこう歩く
第10回

 彼らは冷暖房のきいた店内に、 家から持ち込んだお茶と肉入り饅頭(つまり肉まん)だけで、 朝から晩まで居続ける。 毎日通えば友達もでき、 そこは無料の社交場と化していた。千を超す椅子席のほとんどを、 こういう中高年に占拠されたらしい。

 なかでも問題視されたのが、 フードコートを利用した「中高年見合い大会」だった。毎週火曜と木曜、 独身の中高年たちが集合し交流する。無料のコーヒーか、 自前のお茶ですませば、 参加費用はゼロである。

 ちなみに、行政が提供する“老人憩いの場”のようなところは、金額がかさむのだそうだ。

 この店は改装のため、 現在は休業中である。 フードコート見合いも雲散霧消に陥ったが、 一部は従来の人民公園に移動して、 高齢者見合いは続いているのだそうだ。いずれどこかのフードコートで完全復活しても、不思議ではない。

 長寿を祝う菓子(寿桃)、麺(長寿麺)の種類は豊富になり、高齢者が好む小豆餡に味噌味を加えたもの、 健康に配慮した無糖のもの等は好調な売れ行きを示している。 

 誕生会用には、9種類(9は縁起がいい数字)の長寿麺と寿桃や餅類が売り出されている。 60歳以上は2割引き、68歳以上になると粗品進呈など、老人市場の取り込みに必死である。

 新たな市場も出現している。

 改革開放後、 中年女性の化粧に世界中の化粧品業界が注目したが、 最近では老人層にまで化粧ブームが広がりを見せている。 化粧は精神汚染と言われた時代を生きた人々は、老年になってようやく解放され、“おしゃれ”とか“流行”に関心を持ち、化粧意欲が一気に増している。

 「(2050 年には)60 歳以上の高齢者は人口の3 分の1ほどの5 億人以上となるだろう」(中国発展研究基金会 2020 年発表)とされていて、予測通りにいけば、消費潜在能力は、世界最大である。

 北京で暮らすある高齢者は、自身の生活を「三点一線」と表現し、毎日が家・学校・自由市場の三か所を回るのみと語る。 友人もなく、自分だけの時間もない。時々自分は『有期刑』を宣告された気分で、 いつ『刑期満了』で家に帰れるのか分からない」。精神的孤独に陥る高齢者は少なくない。彼らの口癖は 「娘の家」 「息子の家」 であり、 「我が家」 とはめったに言わない。

 要介護の高齢者は3,500万人にも上るなか、都市化が進み、家族構成も変容した。伝統的な家族による介護が物理的に不可能となっている。

 近年、  「一人失能、全家失衡」(一人が病気や要介護となったら、 家庭全体の生活基盤が崩れる)という言葉が広く使われており、 「介護難民」 や 「老老介護」 も深刻化している。政府にとって介護制度の整備は急務となった。

 なんとなく深刻な気分になってしまいそうなので、最後に“老人誕生日宴会”でよく見かけるこの一品をご紹介しましょう。

 「紅棗開口笑」

 種を取り除いたナツメにもち米を詰めて、蒸したもの。 ナツメの甘味だけで充分だけれど、 だいたい最後に黒糖がかけられている。

 ナツメは繁栄と幸福を象徴し、もち米は団らんと永く続くことを願う意味合いがある。 高齢者が幸福で健康で、 何よりもいつも笑顔でいてくれるようにとの思いで、誕生日の宴会などで選ばれるという。

 これは本当に美味で、 東京·池袋のガチ中華店のメニューにもあるので、機会があれば、ぜひお試しください。
(続く)

青樹 明子

愛知県生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学第一文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。
1995年より2年間北京師範大学、北京語言文化大学へ留学し、98年より北京や広州のラジオ局にて、日本語番組の制作プロデューサーやMCを務める。2014年に帰国。著書に『中国人の頭の中』『中国人が上司になる日』『日中ビジネス摩擦』『「小皇帝」世代の中国』『家計簿からみる中国 今ほんとうの姿』等。

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