今どき北京はこう歩く
第11回
第11回
最新北京はこうだった
トランプゲームが大流行
1年ぶりの北京の夜は、亮馬河から始まった。亮馬河とは北京市朝陽区にある河で、 全長約9.3キロメートル、 周囲には各国の大使館が立ち並ぶエリアである。
などといえば、 さぞかし美しい場所だと思ってしまうが、 私の知るこの河は、干からびていて地面は割れ、水といえば雨が降った後の水たまりがせいぜいだった。 ペットボトルや使用後のスーパーのレジ袋が散乱し、 まるでゴミ捨て場である。治安も良いとはいえず、 「河」 という名にそぐわない、市内でも残念な区域のひとつだと思っていた。
それがここまで変わるとは…。2019年に整備が開始されてから、 2023年には水辺の緑道が貫通し、 橋も架けられ、 水が満々とたたえられている水面は、 鏡のように光っている。
夏の夕暮れ・亮馬河はまさに庶民の憩いの場所だった
撮影:青樹明子


見事に変身を遂げたこの河では、 なんと多くの外国人たちが泳いでいる。 水質は「ゼロ汚染流入、1メートル透明度」の基準を達成したらしい。
この新しい観光名所には、多くのレストランが集結している。
北京の弟Kくんが連れて行ってくれたのは、 いわゆる「高級」部類に入るお店だった。メインメニューは北京ダックである。
お店到着は午後4時。予約は5時だというから、もちろん早い。
しかしKくん「問題ないよ」と言う。
撮影:レーナ
「個室を予約する場合、1時間2時間早くても大丈夫。みんな早めに来て、トランプゲームをするんだよね」。
トランプゲーム。今、中国で大流行しているらしく、今回北京で会った友人に「北京で今、最も流行っていることは何?」と聞くと、8割以上が 「トランプゲーム」 と答える。もはや社会現象化しているといっていいほどで、日本でいえば、「たまごっち」 「ポケモン」 「スペースインベーダー」 に匹敵する。
休日にボート遊びで賑わう亮馬河
撮影:レーナ

摜蛋(グアンダン)
ここまで中国人を夢中にさせているトランプゲームとは何だろう。
それは摜蛋(グアンダン)といって 「大富豪」 と 「ポーカー」 を融合させたような感じらしい。江蘇省が発祥で、2020年以降、中国全土に急速に広まった。北京に関していえば、1年前はさほど耳にしなかったのに、今年になって爆発的に流行しているといった感じである。
ルールは、 中国人によると 「簡単だよ」 とのことだが、 私の中国語力ではどうもよくわからない。理解した範囲でいうと、ゲームは2人1組、合計4人が2人ずつペアになって競うチーム戦である。使うのはトランプ2セット分、108枚のカードである。基本は、相手より強い数字のカードを

テーブル上に出していき、 最初に手札がなくなった人の勝ちとなるが、 そこに相手やパートナーのカードの強さ、 弱さを推測する要素が加わってくるから、やはり複雑だ。
このゲーム、食事前の1~2時間、そして食後の1~2時間、いやそれ以上延々と行われる。経済不況の影響下、店側も個室を使ってくれる客に対して、 「閉店時間です、 お帰りください」 とは、 なかなか言わない。 6月末はサッカーワールドカップもあって、夜遅くまでゲームに興じた後、 仲間の家に行ってサッカーの中継を観るというのが、 基本パターンらしい。 翌日の仕事に支障はないのだろうか。
摜蛋(グアンダン)がもたらすもの、それは日本的にいえば、ゴルフや麻雀に似ている。 今や仲間同士のコミュニケーションツールになっていて、特にビジネスマンの情報交換等、重要な社交場面には欠かせないのだそうだ。
対話のきっかけもつかめていない日中だが、 日中双方の政治家たちが、 麻雀や摜蛋(グアンダン)をしつつ政治を語ったら、 それはそれで面白い光景ではある。
激安食堂?
中国関連の報道を見ると、まず言及されるのが「経済不況」である。
もちろんそれは事実だろう。あらゆるデータがそれを示していて、日本にどういう影響を及ぼしていくか気になるところではある。
しかし不思議なことに、それを中国人に問うと「あまり実感がない」と答える。
街のランドマークだったようなビルが丸ごと閉鎖され、 憧れだった高級レストランが閉店になっている等、 不況が目に見える事象もあるけれど、 日常生活はというと「友達との会食が減った」「以前より貯蓄するようになった」という以外、日本ほどの物価高に悩む様子はまだ少ないように思う。スーパーに行くと、お米は安くふんだんに並べられていて、季節の野菜、果物も、日本のように庶民がためらうほどの値段ではない。
それでも 「激安」 はやはり歓迎される。その 「激安」 、 レベルが上がっていて、 以前ご紹介した 「貧乏人定食」 よりも、 さらに人気を集めている。
その代表格が「南城香」だ。ファストフードではあるが、朝食の内容と価格が「これまでにない驚愕レベル」なのだそうだ。
確かにすごい。
まず、この店の名物、「海老ワンタン」(蝦仁大餛飩)は 5個で10.5元、 10個なら20.5元である。キノコ入り野菜マントウ(香菇青菜包)は1個 2.5元、 豚肉とネギの焼き餃子(猪肉大葱鍋貼)は3個で4.5元という安さだ。
店舗数は多いので、ぜひお試しください
撮影:青樹明子


人民元と円のレートは、1元約24円(2026年8月)となっているが、日本円に換算すると、あまりの円安のため実態から乖離しそうなので、敢えて人民元表示にする。 参考までにペットボトルの価格を申し上げると、 ミネラルウォーターが1本3元ほどである。
友人が言うには「店は清潔だし、 ワンタンはひとつひとつに海老がちゃんと入っている。安いだけではなく、 内容が伴っているから、 急激に伸びてきた」のだそうだ。
不況のもと、 激烈な競争下、 勝ち残るには、 「安い」 だけでは駄目だった。値段以外にどこまで人を惹きつけられるか、中国商人も知恵を絞っているようだ。
ミネラルウォーター1本分の値段で朝食が食べられる
撮影:青樹明子
雪衣豆沙
さて、前々回のコラムだったか、忘れられないデザートということで、こんな一品をご紹介した。以下抜粋…。
「忘れられないのが 雪衣豆沙(当時、名前は知らなかったが)というデザートである。 揚げたての ふわふわの薄い衣の中に小豆餡があって、 上から白砂糖が振りかけられている。中国にはこんなに美味しいものがあるのか、 と驚いたものだが、 その後二度と出会うことはなかった。 留学という楽しい思い出と共に、記憶に深く刻まれた東北料理である」
ということを、北京初日、亮馬河の北京ダック店での食事会の折、中国の友人たちに話をした。
すると、中の一人が「え?」という顔で言う。
「それは東北料理の有名な料理だよ。 この近くの店にあるから、 買ってきてあげる」
今度は私が「?」 。 なにしろ30年間探していたものである。 東北の瀋陽、長春、ハルビンでも探した。しかし一度も出会えなかったものなのに、いとも簡単に 「あるよ」と言われても…?
友人が店を出て15分経過。
戻って来た!「テイクアウトで注文してきたから、20分後に取りに行くよ」
20分経過。「そろそろ、できたかな」と、彼は再び出発。
またもや15分経過。戻って来た!
「これのことだろ?」
謝謝、劉先生!
撮影:青樹明子


私はしばし絶句した。これだ、これこれ。まさにこれ!30年思い続けた一品である。まるで小学校時代の憧れだったOくんに再会した気分だ。
お味は記憶のまま、メレンゲが小豆餡を覆うようになってふわふわ感を保ち、餡も甘すぎず、絶妙な食感だった。
衣とメレンゲと小豆餡のハーモニーは絶妙
撮影:青樹明子
私があまりに感動していたので、後日、別の東北料理店で再びご馳走してくださり、違う一品も紹介してくれた。
甘い卵のパンケーキのようで、表面はカリッとしているのに、中はもっちり柔らかい。
最後に水あめがかけられているので、つまむと糸を引く(抜絲)。
名前は“酥黄菜”。どう訳したものか…?
日本のガチ中華店でぜひ出していただきたいものです
撮影:青樹明子

私のわがままをめんどくさがらずに聞いてくれた、友人たちのやさしさに感謝です。
(続く)

青樹 明子
愛知県生まれ。ノンフィクション作家。
早稲田大学第一文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。
1995年より2年間北京師範大学、北京語言文化大学へ留学し、98年より北京や広州のラジオ局にて、日本語番組の制作プロデューサーやMCを務める。2014年に帰国。著書に『中国人の頭の中』『中国人が上司になる日』『日中ビジネス摩擦』『「小皇帝」世代の中国』『家計簿からみる中国 今ほんとうの姿』等。